願うなら、きみが






「八代」

「はいっ」

「この後時間ある?」

「あるけど、どうかした?」

「聞いてほしいことがある」



ホームルーム終了後、八代が立ち上がる前に席まで行った。「わかった」とひと言そう言った八代の目はゆらゆらと彷徨っていて、きっと俺の話したいことの見当がついているのだとここで気がついた。



「ちなみに……聞いてほしいことって?」

「それはまぁ、みんなが帰ったら」

「わかった。じゃあちょっと待ってて」



きっと、わからないフリをしてくれているのだろう。八代は間中の元へ駆け寄って、何やら話をしている。たぶん、今日は一緒に帰れないと伝えているのだと思う。間中は八代に向けて右手で丸を作って、それからぶんぶんと手を振った。



下校や部活やらで教室からはどんどんひとがいなくなって、俺と八代のふたりだけになるのにそう時間はかからなかった。


八代の前の席に座れば、八代も自分の席に座る。沈黙の中、何から話そうか考えていたところで、「星谷くん」と先に名前を呼ばれた。



「うん」

「話したいことって……」



心配そうに顔を覗き込まれた。今はもう朝のように笑うことはできない。

代わりに真っ直ぐ、八代の目を見た。



「……終わったんだ」

「終わったって、何が……?」

「好きって言って、振られた」

「……」

「やっぱり八代はなんとなく気づいてた?」



だって、ちっとも驚かないから。俺の言葉で答え合わせをしているような、そんな感じがするから。


だけど俺からの問いに少しも反応しない。気を遣っているのだろうかと、「八代」と名前を呼んでみる。


すると八代は首を左右に振った後で、どうしてか「ごめんなさい」と頭を下げた。