「星谷くん」
「八代、おはよ」
「おはよう。体調どう?」
「あ……うん、元気」
次の日の朝、教室に入って自分の席に着くと、すぐに八代がやって来た。心配そうな瞳がこちらを向いているので、安心させたくて笑ってみせる。
「もう大丈夫?」
「うん、大丈夫」
どうやら、俺は体調不良で休んでいたことになっているらしい。まぁ、半分は当たっているけれど。でも八代には、それが違うってことを話さないと。
いつもなんでも見透かしてくる八代。もしかしたらもう、何かを察しているのかもしれない。そう思って瞳の中を覗いてみたけれど、俺には八代の考えていることは少しもわからなかった。
「そっか、よかった。あ、これ休んでた分のノート。よかったら使って? プリントとかは竹内くんが持ってるから後で貰ってね」
「え……」
「? だってテストの時困るでしょ?」
「……ありがとう」
差し出されたノートを見て、一気に申し訳なくなる。だって本当は学校に行けたはずなのに、ただ音楽を聴いたり動画を観たりしていただけの数日だったのに。
その間も八代は授業をちゃんと受けて、こうして俺のためにノートを貸してくれている。
それも全部失恋のせいだと話せば、八代はいつものように慰めてくれるのだろうか。
ちゃんと話したい、聞いてほしい。たとえもう体調不良ではなかったと気づかれていても、きちんと自分の口から。
「あっ、そういえばね、星谷くんが休んでる間に本読み終わったよ」
「早いね」
「続き気になっちゃってさ」
「どうだった? 面白かった?」
「ちょーーー面白かった! でもね、わかんないとこあって……ちょっと待って、持ってくる!」
目の前の八代が、昨日頭で思い浮かべたのとあまりにも同じで、思わず笑みがこぼれた。
席に戻って、すぐにまた本を持って戻ってきた八代は、「えーっとね」とページを捲る。
この時間はいくらか、傷の痛みが和らいだ気がした。


