願うなら、きみが






だけどさ、小春ちゃん。

俺はやっぱり嫌だよ。


幸せになれないあなたを、これからずっと見ていなきゃいけないのは。

泣いているあなたに、何もできないままなのは。



だったらもう、いっそのこと――



「俺の方がよっぽど……」

「……え?」

「俺の方があいつより、小春ちゃんのこと大事にできるよ」



本当はもっと温めていたかった。今打ち明けるつもりなんてなかった。

案の定小春ちゃんは目を見開いたまま、俺の顔をじっと見つめた。



「え…………?」

「好きだよ。小春ちゃんのことだけが、ずっと」



そんな小春ちゃんに、真っ直ぐに伝える。

伝えるにはあまりにも早すぎる。だけど逃げ道がここにあるよって、教えてあげたかった。あなたのことが好きな人間がここにいるよって、知ってほしかった。


たった16歳の俺に、彼女を救えるわけはない。だけど何もしないよりはマシだと思った。



たとえこの瞬間、この恋が終わってしまうのだとしても。



「えっと…………」

「うん」

「……ごめん」

「うん」

「気持ちは嬉しい……だけど私、大希のことが好きだから」



すんなりとその答えが飲み込めるのは、わかっていたからだ。だけど飲み込めるからと言って、ノーダメージなわけではない。

年が離れているからだとか、生徒だからだとか。そうやって言ってくれた方が、きっとまだ傷は浅かった。

だけど小春ちゃんが俺にくれた答えは、想うだけ無駄だと、この恋に望みなどないと、そう思わせられるような〝ごめん〟だった。


そんなことわかっていた。最初から答えなんてわかりきっていた。

それでもまだ全然好きだなぁって胸の端っこの方で思ってしまうのは、きっと小春ちゃんも同じでしょう?



「俺の気持ち、知っててくれたらそれでいいから」

「ありがとう……ほんとに」

「うん」

「ごめんね…………瑞希くん」

「……っ」



下の名前を呼ばれたのは、高校に入学して最初に会った時以来。久しぶりにその口から紡がれた自分の名前。


涙が出るには、充分な理由だった。