願うなら、きみが






俺には言えないとか言っていたのに、こうして結局真実を話してくれるのは、本当は誰かに聞いてほしかったからでしょう?


わかるよ、それ。わかるから。

俺に全部吐き出してしまえばいいよ。


だけど俺は、あいつとのハッピーエンドなんて願えないから。



「もうしないで、先生」

「……」

「もう会わないで、あいつに」



切実な願いごと。まだ引き返せる、まだ間に合う。小春ちゃんには、笑っていてほしいから。


この際、笑顔にさせてあげるのは俺じゃなくてもいい。だけどあいつはだめだ。あいつ以外との幸せだったら、今なら願えるかもしれない。

あいつのせいで幸せな道を歩けないより、俺じゃなくても誰かの手で幸せになってくれた方が何倍もいい。


そう思うのは全部全部、小春ちゃんが好きだからだよ。



だけど彼女は、首を縦には振らなかった。代わりに、涙をこぼして困ったように笑った。



「……なんで」

「好きだから会いたいと思うのは、おかしいのかな」



おかしくない。だけど、だめ。

そんなこと、このひとがいちばんよくわかっているはずだ。



「何言ってるの。もうだめだよ。傷つくのは先生でしょ。先生がどんなに辛くなったって、あいつは少しも傷つかない。そんなのおかし、」

「それでもいい」

「え……?」

「もちろん、今の彼女さんには申し訳ないと思ってる」

「だったら……!」

「でも、好きなのやめられないんだ。ねぇ、どうしたらいいのかな」



後悔の色は全く見えなかった。どうやら引き返すつもりなどないようで。

あんなクズ野郎の一体どこが好きなんだって、口から出そうになったけれど、耐えた。

だって、あいつの隣にいた時の小春ちゃんの笑顔を思い出してしまったから。



「……俺はあなたに悪者になってほしくない」

「私は星谷くんが思うよりずっと悪い大人だよ」

「そんなこと……」



あぁ、そうだ。俺が今まで見てきたあなたは、ただ大希のことだけを好きだったね。