願うなら、きみが






さっきまで大希と会っていたのは間違いない。所謂、大人の関係ってやつにでもなったのだろう。だけど小春ちゃんはまだ大希のことが好きで、でも大希はもうそういう目でしか小春ちゃんのことを見られないから。

あの頃の関係に戻れなくて、だから今そんなふうに泣いているんでしょう?


残酷だ。だってかつては、こころを通わせていた恋人同士だったのだから。そんな残酷さを彼女に与えるあいつが、心底憎らしく思える。



「とりあえず、どっか座りません?」



こんな道端で、しかも相手は泣いていて。落ち着いて話したかった。棘が刺さっているなら、抜いてあげたかった。



「……でも」

「俺私服だし、べつに怪しまれないですよ」

「……」



1歩近づくとお酒の匂いがして、息を止めたくなった。(子供)にはわからない、大人の匂い。さっきまであいつといたっていう証。


早くそれを拭い去りたかった。だから小春ちゃんの返事を待たずに歩き始めた。そうすれば小春ちゃんは、きちんと後ろをついてくる。


少し歩いた場所に小さな公園があって、そこに入った。先にベンチに座ると、ちょっとだけスペースを空けて彼女も腰をおろす。瞳は濡れていて、俺と目を合わせようとはしない。


だけど意外にも、先に口を開いたのは彼女の方からだった。



「……私、だめだね」



耳を澄まさなければ、かき消されてしまいそうな声。一言一句聞き逃したくなくて、耳に神経を集中させる。



「なんでですか」

「会いたくて、会いに来た」

「はい」

「でもね、大希、今」

「うん」

「…………彼女、いるんだって」

「は…………」



頭を殴られたみたいに、それは衝撃だった。

聞き間違いだと思いたかった。だけどもう1度それを言わせるのは、あまりにも酷だと思った。

だってそれが何を意味しているのか、経験のない俺にでもわかるから。



「それ聞いても、帰れなかった。最低なことしちゃって、でも、やめられなくて」

「なんで……」

「私……される側からする側になっちゃった」



ようやく俺の方を見た瞳からは、涙がぽろぽろとこぼれていて。

拭おうと手を伸ばしても首を横に振られてしまって、触れることを許されなかった。



「だめだね。教師は、正しくあるべきなのに」



頬は涙でびしょ濡れだ。それでも大粒の雫が次々と溢れる。



このひとが正しくなれなかったのは、全部あいつのせいだ。