𖤐
八代が学校に忘れ物をしたらしく、それを取りに戻ってしまった。
急に隣が寂しくなる。そのままひとりで歩き始めて思った。八代の目は、やっぱりなんでも見透かしてしまえるのだろうかと。文化祭でのこと、話そうと思っていたら先に八代から切り出されて、ついドキリとした。
八代に聞いてほしかった。俺の気持ちを知っているのは、たったひとり彼女しかいないから。
だけど忘れ物をしたのなら仕方ない、と。消化不良の気持ちを元の場所に押し込めて駅を目指す。
そうだ、今日は1度家に帰ってから、取り置きしてもらっている本を取りに行こう。家の最寄りからはちょっと離れた駅。しかも本屋は駅から少々歩く。
だけど歩くのは好きだから、苦ではない。知らない街を歩く夜のことを思えば、いつの間にか早足になっていた。
:
*.
夜、予定した通り目的の本を受け取って、来た道とは違う道を歩く。夜の散歩を楽しむために、ゆっくりと。だけど下ばかり見ていれば人通りの多い道に出てしまって、別の道を探そうと顔を上げる。
するとその瞬間、知っている背中が視界に映ったから。気がつけば、その背中を追いかけていた。
そんなわけない、と思うより、体が先に動いた。
「、先生?」
「っ、え、星谷くん」
振り向いたのは、やっぱり彼女で。どうしてここに? という疑問よりも、外で会えたことを嬉しく思う。
学校の外、しかも後ろ姿だけでわかってしまうなんて。自分でもおかしくてちょっと笑える。
「こんなところで何してるんですか」
「えーっと……」
わかりやすく目が泳ぐ。その顔をまじまじと見れば、今日の授業中に見た彼女よりも化粧が濃くなっていることに気がついた。
だからか、嫌な予感がした。そういうのって大体当たるから、口に出すかどうか悩んだ。
だけどいつの日かと同じように、彼女の瞳の中が潤んでいくから。気づかないフリをするという選択肢は早々に消え失せた。
そしてそれと同時に、嫌なことを思い出す。
あー、そういえばここから1駅先は、あいつの家の最寄りだったな、って。
「会ってました?」
「……っ」
「もしかして、より戻したんですか?」
そんなわけない。だったらそんな顔しない、たぶん。
「……」
「先生」
「……言えない、よ」
「え?」
「星谷くんには、言えない」
「それは俺が生徒だからですか?」
「……違う」
「じゃあなんです。先生は、誰かに言えないようなことをしてるんですか?」
そう聞けば、小春ちゃんが俯いた。涙が地面に落ちた。
それを見てなんとなく、予想がついた。
八代が学校に忘れ物をしたらしく、それを取りに戻ってしまった。
急に隣が寂しくなる。そのままひとりで歩き始めて思った。八代の目は、やっぱりなんでも見透かしてしまえるのだろうかと。文化祭でのこと、話そうと思っていたら先に八代から切り出されて、ついドキリとした。
八代に聞いてほしかった。俺の気持ちを知っているのは、たったひとり彼女しかいないから。
だけど忘れ物をしたのなら仕方ない、と。消化不良の気持ちを元の場所に押し込めて駅を目指す。
そうだ、今日は1度家に帰ってから、取り置きしてもらっている本を取りに行こう。家の最寄りからはちょっと離れた駅。しかも本屋は駅から少々歩く。
だけど歩くのは好きだから、苦ではない。知らない街を歩く夜のことを思えば、いつの間にか早足になっていた。
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夜、予定した通り目的の本を受け取って、来た道とは違う道を歩く。夜の散歩を楽しむために、ゆっくりと。だけど下ばかり見ていれば人通りの多い道に出てしまって、別の道を探そうと顔を上げる。
するとその瞬間、知っている背中が視界に映ったから。気がつけば、その背中を追いかけていた。
そんなわけない、と思うより、体が先に動いた。
「、先生?」
「っ、え、星谷くん」
振り向いたのは、やっぱり彼女で。どうしてここに? という疑問よりも、外で会えたことを嬉しく思う。
学校の外、しかも後ろ姿だけでわかってしまうなんて。自分でもおかしくてちょっと笑える。
「こんなところで何してるんですか」
「えーっと……」
わかりやすく目が泳ぐ。その顔をまじまじと見れば、今日の授業中に見た彼女よりも化粧が濃くなっていることに気がついた。
だからか、嫌な予感がした。そういうのって大体当たるから、口に出すかどうか悩んだ。
だけどいつの日かと同じように、彼女の瞳の中が潤んでいくから。気づかないフリをするという選択肢は早々に消え失せた。
そしてそれと同時に、嫌なことを思い出す。
あー、そういえばここから1駅先は、あいつの家の最寄りだったな、って。
「会ってました?」
「……っ」
「もしかして、より戻したんですか?」
そんなわけない。だったらそんな顔しない、たぶん。
「……」
「先生」
「……言えない、よ」
「え?」
「星谷くんには、言えない」
「それは俺が生徒だからですか?」
「……違う」
「じゃあなんです。先生は、誰かに言えないようなことをしてるんですか?」
そう聞けば、小春ちゃんが俯いた。涙が地面に落ちた。
それを見てなんとなく、予想がついた。


