始めは、ただの風邪だと思っていた。
だけど次の日もその次の日も、星谷くんは学校を休んだ。さすがに、変だと思った。
「どうしたんだろうねぇ、星谷くん」
「うん……」
メッセージを送ってみても、既読がつかない。なんとなく嫌な予感がした。だけどそんなこと、あーちゃんには言えなくて。でも、気になって。
確信を得るためには、手段はひとつしかなかった。
──「……先生」
「あら八代さん、どうかした?」
放課後、向かったのは図書室。先生がいるのかはわからなかったけれど、見つかるまで探すつもりだったから、いてくれて助かった。
カウンターを挟んで向こう側に立っている先生は、いつも通りだった。だから私の予感は、もしかしたら外れているかもしれないとも思った。
だけどここまで来たからには、聞かないと帰れない。
小さく息を吸う。先生はそのあいだも、可愛らしく首を傾げてこちらを見ている。
「星谷くん」
震えないように、なるべく丁寧に音を乗せた。先生の顔をじっと見る。呟いた名前は確かに届いているはずなのに、それでも彼女は少しも動揺を見せなかった。
「ん? 星谷くんがどうしたの?」
「えっと……星谷くん、ここ数日休みで」
「そうなの? それは心配だ」
本当に、心配しているような声で。初めて知ったかのような表情で。そうなればもう、私の考えすぎなのかもと思えてきた。
だけど、やっぱりおかしいと思う。だって星谷くんがこんなに学校を休むなんて珍しい。
風邪を拗らせただけかもしれない。でも、違うと思う。勘としか言えないけれど、それでも、星谷くんのことは誰よりも見てきたつもりだから。
「先生、知ってますよね」
「何を?」
「星谷くんが、どうして休んでるのか」
「えぇ? どうして」
「だって私、知ってるから」
ずるいけど、こうするしかなかった。これぐらいは許してほしかった。
だって先生は、私が手に入れられないものを、いつでも手に入れられるひとだから。


