どうして私は、そう思うほどに星谷くんのことが好きなのだろう。
決して、燃えるようなメラメラとしたものではなく、穏やかでいて、だけど強く強く胸の真ん中にある気持ち。
始まりはあの図書室で、突然宿った気持ちで。だけどその日から今日まで、星谷くんのことをずっと見てきた。
だから良いところがたくさん見えて、知らなかった部分も見えて、そうすれば好きなところが増えた。
私より大きな背中、本を読む横顔、授業中1度も寝ないところ、男友達と話す時は声を出して笑うことろ、掃除を真面目にやるところ、エトセトラ。
あの時好きになっていなくても、どこかのタイミングできっと同じように好きになったと思う。
笑ってくれるようになった時も、初めて一緒に帰った時も、先生のことを話してくれた時も、どれも嬉しかったなぁ。
傷ついたってよかった。星谷くんが、いつかこっちを向いてくれるのなら。それだけを願って今ここにいる。
……あぁ、だめだ。
このままだと、口を滑らせてしまいそうだ。
込み上げてきてしまう。好きだって、伝えてしまいそうになる。
「……あ」
「どうかした？」
「ごめん。学校に忘れ物しちゃった」
「え、大丈夫？」
「だから戻るね。ごめん、私から誘ったのに」
「いいよ。気をつけて。また明日」
「うん、また明日」
嘘がバレないように精一杯演技をした。それから星谷くんに背を向けて来た道を戻る。せっかくふたりになれたのに、自分からその時間を終わらせてしまうなんてもったいないでしかない。
だけど、気持ちが溢れてしまうことの方がだめだと思ったから。いつかは伝えたいことではあるけれど、それは今じゃない。
だけど、そんな嘘をつかなければよかったかもしれない、と。私は後悔することになる。
だって、〝また明日〟って言ったのに、次の日星谷くんは学校に来なかったから。
