背の高い星谷くんの顔を覗き込む。そうすれば立ち止まったから、同じように立ち止まった。
日はもう落ちていて、秋が終わっていくのを感じる。何事も終わりは寂しい。
だけどきっと星谷くんの寂しさは、その程度のものではないはずだ。
「嫌なこと言われた」
「なんて……?」
あの優しい朝倉先生が傷をつけてしまう生徒は、学校の中で唯一星谷くんしかいないだろう。
「好きなひとができたら、私の気持ちわかるようになるよ、だって」
「……」
「ほんと、なんなのあのひと」
「……大丈夫?」
「うん、まぁ、さすがにちょっとぐさっときた」
それらは決してとげとげとした言葉ではないはずなのに。彼には、私たちには、簡単にそれが針となる。
同じだ。私も、星谷くんも。そして星谷くんだって、私から見れば先生と同じ。そのことに彼は、きっと気がつかない。
くるしいよね、かなしいよね。わかるよ、わかるから、そのこころの真ん中に刺さった棘は、私が抜いてあげたい。
だけどそれと同時に、ずっとそのままでいればいいのに、と。全然やさしくなくて、最低なことを思う。
私と同じ気持ちで、先生の背中を追いかけて。うまくいかないって、私に弱さをこぼして。
こんな日がまだ続けばいい、って。
「しかも、兄貴と連絡取ってるらしいし」
「そう、なんだ」
「会ってるのか、そこまでは聞けなかったわ」
「やっぱり会ってほしくない?」
「そりゃ、嫌だよ。相手が良いひとだったら、そうは思わないかもしれないけど」
「はぁ」と、小さなため息が聞こえた。先生のことだけを想ったため息が、空気に溶けていく。
良いひとだったら。星谷くんは身を引ける? 星谷くんは願えるひと?
好きなひとが、好きな道を歩むこと。
好きなひとの、幸せを。
「あいつは、だめだよ」
私はね、星谷くん。
先生が良いひとでもそうじゃなくても、私はやっぱり、願えないよ。


