嫌だな、あいつ。

そんなあいつのことが好きな小春ちゃんも、嫌だ。



「最近どうなんですか? 連絡取ってる?」

「うーん……たまーに」



だけどそれを悟られないように。気にかけるフリをして、柔らかく聞こえるよう丁寧に言葉を発した。


ふたりきりだとついタメ口が混ざってしまう。違和感を感じながらいつもは敬語で話すようにしているけれど、今日ぐらいはいいだろうか。

本当は〝先生〟って呼ぶのだって、未だに変な感じがする。こころの中ではずっと、このひとは〝小春ちゃん〟だ。



「なんでそんなのに大希のこと好きなの」

「わからないよ、そんなの」



そう言って、さっきと同じように笑う。その言葉に乗せられた思いが、どれだけ切実なのかを知っているから。俺がこのひとを好きなように、このひとは兄貴が好き。同じだから、その気持ちが痛いほどわかるから。


気づいてほしい、でも、気づかないでほしい。


ねぇ小春ちゃん。俺だってわからないよ。叶わないとわかっていて、どうしてずっとあなたのことが好きなのか。



「わからない、って」

「変って言いたいの?」

「いや……」

「好きなひといないの? そしたら私の気持ちわかってくれると思うよ?」



「なーんて」と、ほんの少し口角を上げてそんなことを言う小春ちゃんは、俺の世界の中でいちばん残酷なひとだ。同時に、いちばん好きなひとでもあるからどうしようもない。

わかるに決まっている。誰よりもわかる。だけどその思いは少しだってこのひとに届いていない。






結局後夜祭が終わるまでだらだらと喋っていたけれど、この恋が叶う気なんて少しもしなかった。