𖤐




〝好きなひとと後夜祭の時間をふたりきりで過ごすと、その恋は叶う〟


こんなジンクス、正直くだらないと思っていた。


だけど、見つけてしまったから。



「朝倉先生」



声をかけずにはいられなかった。だってそのジンクスがもしも本当なら、今ここで呼び止めなかったことを後悔すると思ったから。



「あ、お疲れさま。後夜祭参加しないの?」

「しないです。それよりなんか仕事ありますか? 片付けとか」

「うーん、図書室は明日書道部の子たちが片付けることになってるから、特にないかな」

「そうですか」

「……あ、じゃあ戸締りの確認お願いしてもいい? もう閉めちゃうから」

「了解です」



「ありがとう」と、小春ちゃんが1歩先を歩く。その後ろをついて、図書室に向かう。広い図書室には窓がたくさん付いていて、いつもだったら少々面倒な作業だ。

だけど今は終わらなくていいと、なんとも単純なことを思う。学校でふたりきりになれるチャンスなんて滅多にないから。






──「確認終わりました」

「こっちも大丈夫だった。帰っていいよ、ありがとう」



当然、仕事が終わればそう言われるわけで。でも今日はいつもとは違う特別な日。たぶん、ちょっと浮かれていた。

〝まだ一緒にいて〟なんて、心の底から思っていて、だけど口にはしない方がいいことをそのまま伝えてしまうくらいには。

でも小春ちゃんは先生だ。だから当然、先生としての言葉が返ってきて、胸がきしりと痛んだ。



「その言い方、誰かに聞かれたら誤解されるからやめなさい?」

「そうだね、先生」

「そうだね、じゃないよもう」

「誤解されたら説明して回るから大丈夫です」

「〝実はお兄ちゃんの元カノなんです〟って?」

「まぁ……」



大希のことになると、困ったように笑う。あいつは彼女にこんな顔をさせていることなんて、きっと知らない。