「あっ、先輩、ほんとにありがとうございました。ひとりだったらあのまま連れていかれるところでした」
「いいえ。でも仕方ないね」
「仕方ない?」
「ひおがそんな格好してるから」
「え……そんな格好って、変ってことですか?」
「違うよ、逆」
「え」
「浴衣似合ってるし、かわいい」
「!」
由真先輩からもそんな言葉をもらえたということは、やっぱり浴衣は黄色にして正解だったし、あーちゃんのヘアアレンジの腕がすごいということだ。
改めてお礼を言わなければ。しかし面と向かって〝かわいい〟はちょっと照れるな。
まぁ、先輩のそれは、小さい子に対するそれと同義なのだけれど。それでも嬉しい、魔法のような言葉だ。
「由真先輩に褒められるのうれしーです」
「それはよかったです。明日もそれ着るの?」
「明日はクラスの当番入ってないので、ずっと制服です」
「なーんだ。じゃあ今日だけ?」
「そうなんです〜髪の毛とか可愛くしてもらったから、今日が終わるのもったいないなぁ」
すると先輩は何かを考えるみたいに空の方を見上げて、それから数秒後に視線をこちらに戻した。
「じゃあ記念に写真撮っていい?」
「え」
「あ、俺今スマホ持てないから、ひお撮って」
「撮るって一緒に?」
「うん、だめ?」
そんなことを言われるなんて少しも思っていなかったので、ちょっとだけびっくりした。そもそも先輩と写真なんて撮ったことがない。
なんか意外だ。先輩もそういうことするんだ。
「ううん、撮りましょう。ノーマルカメラでいいですか?」
「任せる」
青空の下、パシャリ。先輩とツーショット。短い腕で頑張って撮った写真を見て思う。先輩、ノーマルカメラでもめちゃくちゃ盛れている。顔もちっちゃいし。
「あとで送りますね」
「ありがと」
「毎日拝んでもいいんですよ?」
「はは、ひおもね」
「あ、せっかくならさっきもらったパンダと撮りたい! 先輩もパンダだし!」
「いいね、撮ろ」
ひとつもなかった先輩とのツーショットが画像フォルダに増えていく。喉が渇いていたことなんて、すっかり忘れてしまっていた。


