「なんだこのパンダ」
「は?」
正確には、パンダの着ぐるみを着た誰か、だ。もちろん私もこのパンダさんのことは知らないし、誰なのか検討もつかない。
とりあえず着ぐるみの目を見つめる。そこが本当の目でないことはわかっているけれど、他にどこを見たらいいかわからなかった。
すると今度はやさしい力でぐいっと引っ張られて、そうすれば男の子たちの手からするりと腕が抜ける。
なんだなんだと思っていれば、パンダさんはこちらを見てこくりと頷いた。なんの頷き? と思いながらも、とりあえず同じように頷いてみる。
それが合図だったのか、パンダさんは私の腕を引いて早足で歩き始めた。
「えっ、あ、」
「おい、待てよ!」
誰なのかわからない。だけどたぶん、助けてくれているのだということだけはわかる。
だんだん遠ざかっていくふたりの声。それ以上追いかけてくることはなかった。
「……はぁっ、あの、ありがとうございました……っ」
人混みを抜けて、階段を下りて。一般客は立ち入れない校舎裏。
ちゃんと聞こえているかわからなくて、数回頭を下げた。
そんな私にパンダさんは首を傾げる。〝大丈夫?〟と聞いてくれているみたいに思えた。
「おかげで助かりました。えっと、誰ですか……もしかして先生?」
ちゃんと顔を見てお礼したい。そう思って尋ねると、パンダさんは自分の頭を掴んでぐっと上に持ち上げた。
誰だか知りたい一方でドキドキする。もしかしたら全く知らないひとかもしれないし。
そんな気持ちを抱えながら、顔が見えるのを待った。するとそこに現れたのは、綺麗なミルクティー色。
「あー、あっつ」
「せ、先輩っ!?」
「そう、先輩でした」
「な、なんで」
「はは」と柔らかに笑う。なんとパンダの正体は由真先輩だった。
びっくりしている私の前で、先輩はパタパタともふもふの手で自身を扇ぐ。
「宣伝してこいーって廊下出されて、そしたらなんかひおが絡まれてるの見つけた」
「なんで……パンダ?」
「着ぐるみがいちばん気が楽だね。暑いけど」
たしかに先輩がちゃんとした衣装を着たら、周りに女の子が群がるのが簡単に想像できてしまう。


