「はい、早く受け取って」
「ほんとにいいんですか、もらって」
「うん、あげる」
「あ……ありがとうございます」
すとん、と手の中にふわふわが乗った。先輩ってやっぱりやさしさの塊だなぁ、と手のひらのパンダをしばらく眺めていれば、「あーっ! それ、もらったのー!?」と、あーちゃんと仁先輩が寄ってきた。
「うん、先輩が輪投げで取ってくれた」
「これ1等のじゃん! すごーいっ」
キラキラの爪がパンダをつつく。違う方の手にはお菓子を抱えていた。どうやらふたりはお菓子釣りをやっていたらしく、「あ、これあげるー」と、何個か分けてくれた。なんだか私、もらってばかりだ。
「全部仁くんが釣ったんだけどね」
「先輩ありがとうございます」
「いいえー」
お礼を言えば、仁先輩はにやにやと私を見る。正確には、私と由真先輩のことを交互に。そんな仁先輩のことを、由真先輩は目を細めてじーっと見つめた。
「仁くんなんかにやけすぎーっ」
「いや? 由真って、陽織ちゃんにはやさしいなーと思って」
「あ、たしかに!」
「じーん、うるさいよ」
由真先輩がそう言えば、仁先輩は「はーい」とすぐに黙る。きっと仁先輩にやさしいって言われたのが、照れくさかったんだろう。
それから一通り遊んでいった先輩たちは、「じゃあ頑張ってねー」と、自分たちの教室へ戻っていった。先輩たちがいなくなると、この空間から一気にキラキラが失われたような気になる。あのひとたち、すごいな。
隣のあーちゃんに目をやれば、なぜかさっきの仁先輩みたいににやにやしていた。
「由真先輩、やさしいねぇ」
「先輩はいつもやさしいよ」
「絶対お気に入りだよね、陽織のこと」
「いやいや、バイト先も同じだし、妹みたいに扱ってくれてるだけだよ」
「ふうん?」
あーちゃんはまだ何か言いたそうにしている。気になったけれどちょうどお客さんが来たので、それについては何も聞けなかった。


