びっくりした。まさかここで星谷くんのことを聞かれると思わなかったし、先輩の顔がなんだか近いし。
整った、絵みたいなお顔。これでノーメイクだというのだからすごい。
「いない、です」
「なーんだ、いないのか」
「いても言えないよ……!」
「えー、残念。知りたかったのに」
「……恥ずかしいからやです」
「やなの? 先輩悲しい」
星谷くんとは当番の時間が被っていない。最初は残念だと思っていたけれど、今はそれで良かったと思った。
だってこの場にいたら、先輩に絶対にバレてしまうと思う。私の好きなひとは星谷くんであると。
悲しいと言いながら笑っている先輩。「ほら、ちゃんと遊んでってください!」と、そんな先輩の腕を引っ張る。「おすすめは?」と聞かれたので、輪投げコーナーへ連れていった。
「ポイントに応じて景品があります!」
「そうなの? 頑張る」
「先輩こういうの得意そう」
「どうだろね。ひおはどれが欲しい?」
「えー、1等!」
「おっけー」
先輩に5つの輪っかを渡す。1等の得点を取るのは難しいだろうなぁと、そう思っていたのだけれど。
ラインに立った先輩の手から離れていくそれらは、なんと1度も外れることなく全部に引っかかった。
「え、先輩すご」
「すごい?」
「すごい! だって1個も外れなかった!」
点数を数えれば、1等の点数だった。1等と言ってもクラスの出し物なので、パンダの小さなぬいぐるみというかわいらしいのものだ。
「はい、おめでとうございます」と、先輩に手渡すと同時に思う。せっかくの高得点なのに、先輩にぬいぐるみは不釣り合いかもしれない。他に何か代わりにあげられるもの、ないかな──
「じゃあ、はい。1等あげる」
そう考えていれば、そんな言葉と共にたった今あげたパンダを差し出されて。思わず目をぱちくりさせてしまった。
「えっ」
「欲しいって言ったじゃん」
「でも、」
「ひおにあげたいからあげる」
先輩の手の中のパンダがこちらを見ている。それはだんだんと近づいてきて、私の顔の前で止まった。


