「陽織〜おまたせ〜」
「あっ、おかえりあーちゃん」
それから星谷くんとなんでもない会話をしていれば、ヘアメイクと着替えを終えたあーちゃんが戻ってきた。その顔はにまにましている。たぶん、私が星谷くんと話しているからだろう。
星谷くんはそんなあーちゃんを見て、気まずそうにこちらを見た。
「じゃ……俺はこれで……」
いつもと違う自分を見られるのが恥ずかしいのか、あーちゃんの顔を少しも見ない。でも星谷くん、それは無駄かもしれない。あーちゃん、めちゃめちゃ顔覗き込んでるから。
「あっ、星谷くん……!」
「うん?」
「文化祭、楽しもうね」
立ち去る前に呼び止めた。せっかくここまで一緒に準備してきたんだもの、やっぱりみんなと同じようにこの時間を楽しんでほしい。
そんな私の言葉に小さく頷いた星谷くんは、今度こそクラスメイトの元へ行ってしまった。その背中を見届けた後であーちゃんの方を向くと、何かを言いたそうにうずうずしている。
「ねぇねぇっ、星谷くん、めっちゃいいじゃん」
それから周りのひとに聞こえないように、耳元であーちゃんがそう言った。声は静かだけれど、テンションが上がっているのがわかる。その証拠に、両手がぶんぶんと動いている。
「うん……よすぎて心臓がすごい」
「で、なーに話してたの?」
「いや、大した話はしてないよ」
「なんかにやけてた気したけどー!?」
うそ、にやけてた? 顔に出ちゃうのどうにかしないと。
……なんて、本当は言いたくて堪らないのだけれど。
「……似合うって言ってくれた」
「えっ!? 浴衣!?」
「うん」
「よかったじゃん」
「それでそれでっ?」とまだまだ聞き足りないようなので、本当に大したことないよ、と念押しをして、なんでもない話の内容をちょっとだけ教えた。
そうすればあーちゃんに、「またにやけてる!」と言われてしまって。
やっぱり私は嬉しいと、すぐに顔に出てしまうみたいだ。朝から幸せなにやにやが止まらなかった。


