「八代はいいよ」
「え、何が?」
「浴衣とかそういうの、似合いそうじゃん」
突然言われたそれに、いつもより瞬きが多めになる。だって星谷くんの口からそんな言葉が飛び出してくるなんて思わなくて。
構えていなかった分、防御はもちろんしていない。たかが〝似合いそう〟と言われたぐらいで言葉に詰まってしまうくらいには、簡単に胸の奥の方が熱くなった。
そして何より、星谷くんの頭の中を覗くことはできないからわからないけれど、想像してくれたのかな? と、嬉しさが込み上げてくる。
「……えっ、え」
「? なに、変なこと言った?」
「言ってない……です」
星谷くんはお世辞を言うタイプのひとではないから。だから余計ににやにやしてしまいそうになる。
かわいいとも似合うとも言われたわけではないのに。でも好きなひとにプラスなことを言われたということに間違いはない。嬉しく思うのは普通のことだよね?
もちろんわかっている。その言葉に何も特別な意味は込められていないことくらい。
だけど文化祭前くらい、ちょっとは浮かれさせてほしい。
「じゃあ……さ」
「うん?」
「何色が似合うと思う……!?」
「え?」
「実は悩んでてね、浴衣の色。家にあるのだと黄色系と……あとピンクなんだけど……」
わかんない、と言われるの覚悟で聞いてみたのだけれど、「うーん」と言いながらじっと顔を覗き込まれた。
もしかして、ちゃんと考えてくれてる……?
「……八代は黄色じゃない?」
それから数秒後にくれた答えに、私の頬はまた緩んだ。
「黄色?」
「うん」
「よし、黄色ね、黄色」
「ま、好きなの着ればいいんじゃない?」
「あ、ありがとう……! 参考にさせていただきます」
なんて。絶対黄色にする。髪飾り、合うやつあったかな。
少しでも星谷くんにかわいいって思ってもらえるように……いや、それは欲張りすぎるから、〝やっぱり似合うね〟って言ってもらえるように。
あーちゃんに髪型とか相談しなきゃ、と。この日はしばらくずっと浮かれていた。


