「ありがとう、わざわざ」



だけど星谷くんは、そんなことは聞いてこなかった。つまり、これに関して違和感を感じていないということでいいだろうか。


良かった。星谷くんの勘がそこまで鋭くなくて。



「いつものお礼、的なね」

「お礼?」

「本、選んでくれるから」

「そんなことでこれ貰っていいの?」

「そんなことじゃないよ」



とりあえずの理由をつけておけば、「変なの」と、星谷くんが笑う。

それを見て、前は全然笑ってくれなかったことを思い出す。ひとりの時間が好きな星谷くんは、最初は話しかけてもめちゃくちゃ素っ気なかった。

それでも毎週図書室に通って、おすすめの本を聞いて。ちょっとずつ築いてきた関係。できることなら箱の中に入れて、ずっと大切にしまっておきたい。

だってこの少しずつ積み上げてきたかけがえのないものは、私の言葉ひとつで簡単に崩れてしまうから。


だけどきっと、だから。

こんなに尊く思えるのかもしれない。



「じゃあこれからも、本おすすめしてくれる?」

「うん。てか、べつにこれがなくてもするけど」

「やったー」

「あ、でも次図書当番休みだ。文化祭の準備あるから」

「そっか〜〜〜、じゃあその分楽しみにしてるねっ?」

「はいはい」



星谷くんの言った通り、図書室は書道部の作品を展示するための場所として使われるので、文化祭が終わるまでの数日間は使えなくなるのだ。

ちょっぴり残念だけれど、私には星谷くんの浴衣を見ることができるという楽しみがあるので良しとする。





ほんと楽しみだなぁ、文化祭。



「……なんかにやついてない?」

「、え、うそ、」

「ほんと」



やばいやばい。顔に出てしまっていたらしい。〝あなたの浴衣が楽しみ〟だなんて、口が裂けても言えない。



「い、いやぁ、文化祭楽しみだなーって」

「そう?」

「え、星谷くんはそうでもない?」

「だって……浴衣(あれ)着なきゃいけないじゃん……」

「そうなんだけど、というかそれが楽しみというか……!」



予想はしていたけれど、やっぱり星谷くんはそういうのは苦手らしい。今だって「楽しみ……?」と、少々嫌そうに呟いている。