自分の妹と重なって見えたからなのか。この子の涙を止めてあげなきゃと思った。
ジュース奢ってあげる、と、ひとつ年下の子をそんな言葉でなぐさめようとした。
普段の自分ではしないようなことを、この日他人にした。
結果的には泣き止んで、笑ってくれて。その顔を見てほっとしたのをよく覚えている。
『先輩と話せて良かった、です』
『ん、俺も』
『ありがとう、先輩』
その日を境に、ひおとは距離がぐんと縮まったように思う。歩幅が小さくて、小さな口で食べ物をよく噛む。
小動物みたいな、それこそ、リスみたいな女の子だと思った。
ひおを見ていると構いたくなるし、やさしくしたくなるし、何かしてあげたくなるし。
だけどそれは全部、単に妹のように見えるからこそのものだと思っていた。そう思いながら、過ごしていた。
でも、そうじゃないと気がついたのは、夏の手前。それも、自分で気がついたのではない。
ひおに、気づかされたのだ。
バイトの休憩中、ひおが本を読んでいて。『本好きなの?』と、そう聞いたのがきっかけだった。
『好き、です』
『へぇ。あ、学校で借りたやつ?』
『はいっ、学校の本です』
『よく借りるんだ?』
『借りますねぇ』
『その小説家が好きなの?』
『あぁ……好き、ですけど』
『けど?』
『好きなひとにおすすめを選んでもらって、それを借りてるんです』
きつい香水の匂いではなく、シャンプーの匂い。その香りが鼻を掠めて、なぜだか泣きそうになった。
『……好きなひと?』
『そう、好きなひと』
『ひお、好きなひといるの?』
『へへ……へへ、実はいます』
その後ひおは、自分の好きなひとについて話してくれたのだけれど。正直内容はよく覚えていない。
変に思われないように、相槌だけは丁寧にした。
ちくり、針が刺さったように痛かった。
ひおが嬉しそうに、照れくさそうに、好きなひとについて話しているのを聞きながら。
この気持ちはしまっておくべきものなのだと、そう思った。


