最初は、好きになるなんて思ってもいなかった。







『ゆーまーっ。放課後どっか行こー?』

『んー? 行かなーい』

『え〜っ、なんでよぉ。今日バイト休みでしょ〜?』

『休みだけど、無理なものは無理』

『由真のケチー!』



とりあえず必要最低限口角を上げてみたけれど、クラスメイトはムスッとした顔で目の前から去っていった。

甘ったるい香水の匂いが残る。何プッシュしてるの、ってくらい強い香り。でもこういう女の子って大体、他にも誘う相手がいるから罪悪感は少しも感じない。きっと今頃別の男に、さっきと同じセリフを吐いているだろう。



『ねぇねぇ由真くん、たまには遊んだらどうよ』

『うわ、聞いてたの』

『なーんて。お前ってやさしそうな顔してるくせに、嫌なものは嫌ってちゃんと言えるの、推せるわ』

『仁に推されても……』

『うわー、ひどいー』



やさしそう、とよく言われる。だけど実際はそうでもないと思う。

だからきっとそのギャップみたいなもので、たまにがっかりされることがあるから困る。


例えば、告白を断る時。

『付き合えない、ごめん』と答えた時、理由を問われたことがある。だから『友達としか思えないし、これから先好きになることもない』とはっきりと伝えたら、『藤原くんって、そんな感じなんだ』と、泣かれてしまったことがあるのだけれど。


自分の言い方が悪いだなんて思えなかったし、今でも正解がわからない。そもそも、そんな感じってどんな感じ?

だって、期待させることの方が酷いと思ったから。恋愛に発展する可能性が無いからそう言い切ったのに、そんなことを言われてしまえば、もうどうしていいのかさっぱりで。


正直、面倒だな、と思った。さすがにそれは口にはしなかったけれど。たぶん本当にやさしいひとは、そんなことを思わないと思う。



黒髪だから余計やさしくて話しかけやすい雰囲気が出ちゃうのかと思って、高校入学と同時に髪を明るく染めた。


自分では、前よりはマシになったと思った。ただ、派手めの女の子に話しかけられることが多くなったと思うのは、気のせいだろうか。