失敗した、と思っていると、逸れた視線はすぐにまた戻ってきた。呆れている様子はなかったのでほっとする。
「そっか。チューはしてるんだ」
「あっ、はい……しました、へへ」
いくら相手が先輩だからって、改めてそう聞かれるとちょっと照れくさいな。
だけどその元彼とは、チューして数日後には別れちゃったんだけどね。まぁこれは言わないでおこう。
「大人じゃん」
「えぇ〜? それなら先輩は大人すぎますよ。だっていっぱいしてるでしょ?」
「こらこら」
「あー、ほら、やっぱり」
気になる、という目で見つめてみても、「ご想像におまかせします」と、先輩はちゃんとは教えてくれなかった。でも絶対、先輩は経験豊富なはずだ。
だけどそれは、ただの想像に過ぎない。だって先輩はいつも私の話を聞いてくれるばかりで、自分の恋愛事情について話すことはしないから。
だから気になって話を持ちかけみても、さっきみたいに逃げられることがほとんどで。今は彼女がいないってことくらいしかわからない。
もしかしたら自分のことを話すのは嫌なのかな。いや、色々ありすぎて記憶がごちゃごちゃとか。考えていたら、「ほんとに想像してんの」と笑われたのでぶんぶん首を横に振った。
「チューはしたのに、デートはしたことないんだ」
「そうですねぇ」
「じゃあこれが初めてのデートだね」
「えっ、これ、デート……!?」
「はは、なーんて。初めてのデートは、好きなひととしな」
好きなひとと、デート。
言葉にするのは簡単だけれど、めちゃくちゃに難しいそれ。実現する日なんて来るのだろうか。
「ははー、デート、できますかね」
「できるよ。お祈りする」
「やった、それは叶いそうな気がします」
「でしょ?」
先輩のやさしい言葉に、胸がほわほわと温かくなる。お守りみたいに心強いんだ、いつも。
先輩が味方でいてくれるから頑張れるのだ、と。何度も思ってきたそれを、この時またこころの真ん中で思っていた。


