──「かわいいね」
「かわいい〜……あ、あっちにもいる!」
「ほんとだ」
先輩が変だったのは、この前と同じ、たった数秒だった。
さっきはキリン、そして今ではリスを見ながら楽しそうに笑っている。だから私も、何も無かったことにした。
いつも通り。先輩との時間は、やっぱり心地いいものだ。
「よし、どっちが多く見つけられるか勝負しましょう!」
「ん、いいよ」
私のそんな提案に、先輩は簡単に頷く。しかも、やさしい顔をして。
あぁ、こういうところが妹さんみたいだと思われるんだろうなぁ。きっと先輩はこんなふうに妹さんと接しているんだろうなぁ。
ほんと、先輩はお兄ちゃんが似合う。
「じゃあよーい、スタート!」
1匹、2匹、3匹。動き回っている小さなリスたちを目で追う。かわいいな。後でまた写真撮らせてね〜と思いながら、一生懸命指で数えた。
「7匹見つかりました! 先輩はっ?」
ちょこちょこ動き回られて、たぶん全部は数えられなかったと思う。だからそこまでで諦めて、先輩に結果を伝える。
先輩はとっくに数え終わっていたのか、先輩の方を向いた時にはこっちを見ていた。ということはきっと、私の負け──
「はい、ひおの勝ち」
「え、嘘だぁ!」
「嘘じゃないよ。俺5匹」
「先輩、ちゃんと数えてました!?」
「数えてたよ、もちろん」
「ほんとにぃ〜?」
笑う先輩を見て、これは真剣に数えていない気がした。きっとわざと負けたんだ。だから怒ってますよ、と意味を込めて頬を膨らませてみる。
「かわいいね」
「そりゃ、リスはかわいいですけど」
「違くて、ひおが」
「……え」
「リス、というか小動物みたいだよね、ひおって」
「……それって、褒めてます?」
「うん、褒めてる」
動物に対してと同じ〝かわいい〟なのに。ちょっとドキリとしてしまったのはたぶん、今日の先輩のビジュアルが良すぎるせいだ。


