願うなら、きみが






「ひおの目にも、そう見えてる?」



急に立ち止まってなんだろうと思っていれば、先輩は私の目をしっかりと見てそう聞いてきた。変なの、と思う。だってそんなこと今まで1度も聞かれたことないし、先輩はそういうの全く気にしないひとだと思っていたから。


それに、どうしてわざわざ私にそんな確認をしてくるのかもわからなかった。だけどそれが嫌だとかいうわけではなく、本当に珍しいことだから、ちょっとだけ戸惑っているだけで。

まぁ、先輩にもこういう時があるんだなぁ。ここはひとつ、みんなの代表として言葉で伝えよう。



「当たり前じゃないですか〜。先輩のビジュアルが良いことなんて、いつものことだけど」

「えー、照れる」



先輩が嬉しそうに目を緩める。言われ慣れているだろうけれど、褒められるのはやっぱり嬉しいものだよね。いつもやさしい言葉をくれる先輩が喜んでくれるのは、単純に嬉しい。



「先輩、珍しいね」

「え?」

「だってそんなこと、滅多に聞いてこないじゃないですか〜。でも大丈夫です。ほとんどの女子の目には、先輩はいつもかっこよく映ってますから」



もっと喜んでもらおう、と。そう思って言ったつもりだった。

なのに私の想像とは裏腹に、先輩はちっとも嬉しくなさそうな顔をするから。

もしかして間違えた、と、さっきよりも戸惑ってしまう。



「せ、んぱい……?」

「ひおはもしかして、俺がみんなにかっこいいと思われたいって思ってると思ってるの?」

「え」

「そうなら違うよ、それ」



わからなかった。

先輩がどうして、そんなことを言うのか。

笑っているのに、どうして眉は下がっているのか。



「先輩、あの、」

「なんてね、ごめんごめん。行こ。最初キリン見よっか」

「え、あ、はい……」



だけどひとつだけわかるのは、先輩は今、あの一瞬と同じ表情をしているということだ。