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「お疲れー」

「お疲れさまでーす」



帰る準備をしていると、由真先輩がやって来た。今日は先輩とシフトが丸々同じなので、先輩も上がりの時間だ。言葉を交わして早々、先輩は着替え用のカーテンの向こう側へ。

午前中だけの短い時間だったけれど、土曜日なのでそれなりに混んで、それなりに疲れた。だから帰る前に一旦椅子に座ってだらだらすることにする。

テーブルの上に顔を伏せていると、カーテンの開く音がして。それからすぐに「あれ、まだ帰ってなかったの」と先輩の声が降ってきたので、その声の方へ顔を上げた。



「疲れて動けない」

「なんだ、俺のこと待ってるのかと」

「残念ながら違いますー」



「えー、残念」と、笑いながらそう言った先輩が向かい側に座る。先輩もだらだらしたいらしい。



「先輩帰らないの」

「疲れて動けない」

「あー、真似しないでください」

「はは」



2回目の先輩の笑顔に、こころが和んだ。先輩は今日も若い女のお客さんに連絡先を渡されていたけれど、きっとそのひともこのスマイルにやられたに違いない。


先輩って、罪だなぁ。

そう思ってじーっと目の前の顔を見つめていれば、「そういえば」と何かを思い出したように先輩が言う。



「はい?」

「今度4人で出かけるの楽しみだね」

「えっ、あ……」



それは、先輩と次に会ったら話そうと思っていたことで。だけど楽しみなんて、予想外のことを言われて言葉に詰まってしまった。



「仁たちが行き先決めてくれるらしいよ」

「先輩は楽しみ……なんですか」

「えー、なに、ひおは楽しみじゃないの?」



色素の薄い瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返す。あれれ、本当に先輩は楽しみにしているのかもしれない。


楽しみか……へぇ、楽しみ……。



「おーい、ひおさーん」

「あ……いや、そういうわけでは……」

「じゃあなに?」

「……先輩、断れなかっただけなのかなぁと思って」



無理してOKしたんじゃないんですか、って。だって先輩、やさしいから。



「嫌なら断ってるよ。ひおが行かないって言ったら断るつもりだったし」



だけどやさしく目を細めてそう言った先輩が、嘘をついているようには見えなかった。