ドキドキ、ドキドキ。
好きなひとと視線が絡まるだけで、こんなにも心拍数が上がる。みんなが好きなように話しているうるさい教室の中でも、星谷くんにこれが伝わってしまわないか心配になる。
それくらい今、心臓が鳴っている。
「えっと……」
「うん」
「けどっていうか……」
「うん」
星谷くんは耳がいいのか、つい小さくなってしまった私の声を全部拾った。こんなんじゃ、ドキドキしているのも伝わってしまう気がして。だけど鎮まれと思えば思うほど、余計に大きくなる。
見上げれば今は、当たり前のように目が合う。ふたりの時だけの、それ。顔が一気に熱くなる。赤くなっていないか心配だ。
深い、黒色の瞳。朝倉先生へ向ける眼差しとは全く違うけれど、当然鼓動は速まる。
「八代?」
私が何も言い出さないからか、机に手をついた星谷くんの顔がほんの少しだけ近づいた。
好きなひとはいるよ、それはきみだよ、と。そう言ってしまいそうだった。でもそれは、いちばん口に出してはいけないことで。
「……なんでそんなに聞いてくるの?」
「あー……いや」
「私に好きなひとがいたら気になる?」
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、いつも通りを演じる。それが精一杯だった。
だけど言い終わった後で、すぐに気がつく。あ、間違えたって。そう思った瞬間、ドキドキがズキズキに変わる。
だってどっちの答えが返ってきたとしても、
「そりゃ、気になるでしょ」
「……どうして」
「だって俺、八代のそういうの何も知らないから」
「、」
「だから知りたい……と思うし、応援したい」
それは私が嬉しくなる言葉ではないから。
私の〝知りたい〟と星谷くんの〝知りたい〟では、全然意味が違うんだ。


