ま、あーちゃんも本気で言っているわけではないだろうけれど。



「とにかく! 色々決まったらすぐ教えるねっ」

「うん、お願いします」

「あ〜楽しみ! ダブルデート!」

「あーちゃん? 違うよ? 私はデートじゃないからね?」



片方の頬に空気を含む。そうすればあーちゃんが「ごめん〜」と笑った。だけどどうしてか、すぐにあーちゃんの視線が私の向こう側へ移る。その瞬間、ニコニコ笑顔は驚いた顔に変わった。

どうしたのだろうと思っていれば、背後から声が降ってきて。



間中(まなか)さん」



え…………。

予想していなかったことが起きたせいで、ついびくりと肩が揺れる。


な、な、なんで──



「星谷くん、なーにー?」

「千葉先生が呼んでるよ」

「ほんとっ? ありがと〜」



「てことで、行ってくる」と、あーちゃんが席を立つ。その顔はさっきよりももっとニコニコしていた。

そうして残された私とメロンパン、と、星谷くん。


頭の中には、〝待って〟の文字がでっかく浮かんでいる。

だって、え、もしかして会話……聞こえてた……?


なんて頭の中でぐるぐると考えている私に、「ねぇ」と先に口を開いたのは星谷くんの方だった。



「、うん?」

「デートの相手って、八代の好きなひと?」

「え」

「いや、ごめん。聞くつもりなかったんだけど、聞こえちゃって」

「え」



やっぱり聞かれていたらしい。うわぁ、どこから聞いてた……?

急に心臓がバクバクし始める。どうしよう、誤解されたくない。



「違う、デートじゃなくて……」

「でも間中さんがダブルデートって」

「あーちゃんはデートなんだけど、私は違くて……」

「? どういうこと?」



それにしても、星谷くんがこんなふうに聞いてくるなんて珍しい気がする。でもだからこそ、早く説明しなければならないと思った。



「その、普通に遊ぶだけだよ。デートとかじゃなく」

「その中に八代の好きなひとがいるの?」

「っ、え、いや、いないけど」

「けど?」



星谷くんの視線は逸れない。がやがやと賑わうお昼休みの教室で、こんなにドキドキしたことは今まであっただろうか。