由真先輩からもらったメロンパンを齧る。甘い、いつもと同じ最高の味がする。
大好きな味が口の中に広がって幸せなはずなのだけれど、昨日のことを考えると、やっぱり胸がちくちくするわけで。
それでも昨日よりも痛みを和らげてくれるのは、このメロンパンの甘さで。それがまるで、由真先輩みたいだと思った。
由真先輩は私の吐き出すもやもやを、いつも溶かしてくれる。
あーちゃんには言えないような真っ黒な心の内も全部、由真先輩になら言える。星谷くんに好きなひとがいるのを知っているのは、先輩だけだから。
先輩のあの、やさしくて甘い声に鼓膜を揺さぶられると、不思議なことについ色々と話してしまうのだ。先輩にはきっと、そういう能力があるのだと思う。
それに先輩は、星谷くんのことを知らないから。だからこそなんでも話せてしまうというのもあるのかもしれない。
兎にも角にも、きっと初めてしっかりと話した時から、私は由真先輩にこころを救われている。
これだけは間違いない。
「そういうあーちゃんは、仁先輩とどうなの?」
「え〜っ、聞いてくれる〜?」
「うん、聞かせて?」
胸の内では色々と思うことがあるけれど、口に出せるくらいの面白い話はできないので、早々にあーちゃんに話を振った。
するときらきらと目を輝かせながら、「あのねっ」とあーちゃんは仁先輩とのことを教えてくれる。
「ちょーいい感じだと思う! 最近は毎日おはようからおやすみまで連絡取ってるし」
「え、すごいじゃん。仲良しだ」
「でね? 今度先輩とどっか行きたいねって話してるんだけどさ……」
頬杖をついたあーちゃんに上目遣いで見つめられた瞬間、なんだか嫌な予感みたいなものがした。
きゅるきゅるの瞳から逃れようと目を逸らそうとしたところで、「ひーおり」と甘えたような声が私の名前を呼ぶ。
こうなればもう、逃げられない。
「う、うん……?」
「お願いっ! 由真先輩と一緒についてきてくれない……?」
……あぁ、ほら、やっぱり。


