「てか、昨日の星谷くんとの買い出しはどうだったのよ」



あの後すぐ先輩とは別れた。それから教室に着いて、ふたりで購買のパンを食べる。あーちゃんが私の席まで椅子を持ってきて、私の机で一緒に食べるのがいつものお昼だ。

星谷くんは今教室にはいないけれど、クラスメイトに聞かれないよう小声で「ねっ、なんかあった?」と、楽しそうにあーちゃんがそう聞いてくる。



「……なんにもない」

「えーっ、せっかくふたりになれたのに?」

「だってたまにふたりで帰ったりしてるんだよ? 今更特別なことなんてないよ」

「まぁ、そうだけどさ〜」



昨日、星谷くんとふたりで買い出しに行ったわけだけれど。

楽しかったし、ドキドキもしたし、いつも通り終わってほしくないと思うような時間だった。だけどいつも通り、何も無かった。


星谷くんが朝倉先生のことを本当に好きなのだと、また思い知らされて。それと私のことをただの友達としか思っていないということも、よくわかった。


『なんかあったら俺を空気だと思って話せばいいよ』


私がかけた言葉を、星谷くんも同じように返してくれて。そう言ってくれて嬉しかったはずなのに、ちくりと胸の端っこを棘が刺した。


だって、わかるから。

星谷くんのそれと私のそれでは、少し意味が違うって。


星谷くんはやさしさからそう言ってくれたのだろうけれど、私は違うから。

よくない下心。純粋なやさしさではない。




星谷くんのこころに近づきたいだけの、私の欲。




それに、星谷くんには全部を話せるはずがないのだ。星谷くんみたいに、自分の好きなひとについては絶対に言えない。


だってそれは星谷くん、きみだから。

星谷くんのことが好きだなんてこと、私はいつになったら面と向かって伝えられるのだろう。

そんな日は果たして、来るのだろうか。