「いやっ、いいです」

「なんで? ひお、好きなの食べなよ」



なんで、はこちらのセリフである。

そもそも先輩はやさしすぎるのだ。バイト先が同じ後輩で自分の妹と重なって見えるからって、そんなに甘やかしてくれなくていいのに。私、小学生じゃなくて高校生ですし。

それとも先輩は、やっぱり誰にでもそうなのだろうか。だとしたらそれはモテますよ、先輩。そりゃあバイト先でも声かけられちゃいますよ。

だけどやさしくしよう、とかではなく、先輩はきっと無自覚でこういうことをしているのだと思う。

だめだよ先輩。そんなふうにやさしいのは。



「先輩が食べたくて買ったんでしょ? もらえないです」

「俺が本当はジャムパンがいちばん好きだって言ったら?」

「絶対嘘です。そしたら最初からこっち選んでますもん」

「ジャムパンさ、今日すごい取りにくい位置にあったんだよね。だから仕方なくこっちにしただけ」

「……」



嘘か本当かわからないことを言われて思わず言葉に詰まる。だって確かに今日のジャムパンは、いちばん端っこに陳列されていたから。

もしかしたら本当に、先輩の言う通りかもしれないとか思ったりして。


そんなことを考えている間に私のジャムパンは呆気なく先輩に取られて、その手に渡ってしまった。



「あっ、ちょっと、先輩、」

「交換こ。はい、あげる」

「でも……」

「陽織、ここは先輩のやさしさに甘えなよ〜」



差し出されたメロンパンを受け取れずにいると、横からあーちゃんにそう言われて。

いつも甘えさせてもらっているのにと思いつつ、きっと先輩は引き下がらないだろうなと思って今回はありがたく頂戴することにした。



「先輩、ありがとう」

「こちらこそありがとう」

「な、なんで」

「ジャムパンの方が好きって言ったじゃん」

「……ほんとに?」

「ん、ほんと」



結局先輩のそれが、嘘か本当かはわからなかった。