自分の勧めたものについて楽しそうに話してくれるのは、とても気持ちのいいものだ。

だから本当は、心の中では嬉しいと思っている。八代が本を好きになってくれて、まだ俺におすすめを聞いてくれて。

八代の前では、そんな態度は取らないけれど。


だけど、だから。変な勘違いはしないでほしい。



「ねぇ、八代」

「うん」

「八代にはずっと、そのままでいてほしい」

「え……?」

「八代にだから、話していいと思った……わけだから。あと普通に話してるのも、楽しいし。そう見えてないかもしれないけど……」



こういう感謝とか好意だとかを伝えるのは、昔から苦手だ。だけど下手なりにどうにか言葉にしてみる。

すると八代の顔からさっきまでの申し訳なさが消えていったから、ちゃんと伝わったのだと思ってほっとした。



「だから、八代も。なんかあったら俺を空気だと思って話せばいいよ」



本心だった。


だって八代は、俺には色々聞いてくるくせに、自分のそういう話は少しもしてこないから。

だからってなんでも話してほしいというわけじゃなくて。解決しないことだとしても、吐き出すだけで心が軽くなると知ったから。


だから八代にも……って。八代にはそういうひとぐらい他にいるか。


なんて考えていれば、八代がくすりと笑った。



「空気じゃないよ。星谷くんは、星谷くんだよ」

「自分だってさっきそう言ったじゃん」

「はは、そうだった」



そこまでは、八代も俺と同じ気持ちでいてくれているのだと思って安心していた。


だけど「ありがとう」と、そう言った八代の顔は、笑っているのにどこか寂しそうで。


どうして、と思ったけれど、聞けなかった。八代がそんな顔をして笑う理由が、わからなかった。


考えたところで答えなんて出なくて。でも目的の店に着いて買い物を始める頃には、いつも通りの八代に戻っていたから。

すっかり安心してしまった俺は、その表情の意味をそれ以上深く考えることはしなかった。