結局買い出しは、八代とふたりで行くことになった。元々何人かで行く予定だったのだけれど、俺たちが戻るのが遅かったせいでみんな他の作業に入ってしまい、『ごめんけどふたりで行ってきて〜』と買い物リストを渡された。


普通に申し訳ない。だけど隣を歩く八代の顔は、なんだか楽しそうだった。それにつられて申し訳なさがふわふわとどこかへ飛んでいきそうになる。



「ねぇ、なんでそんな楽しそうなの」

「だって学校抜け出してるみたいで新鮮じゃん」

「……まぁ、そうだけど」



斜め後ろをとことことついてくる八代。小動物みたいなところが、あのひとと似ている気がした。

いや、今はあのひとのことを考えるのをやめよう、と。そう思っていれば、八代が「星谷くん」と背中に呼びかけてきたので、立ち止まって振り返る。


すると、さっきまでの楽しそうな顔とは一変して、今度は申し訳なさそうに見上げられた。



「ん?」

「さっきは偉そうなこと言ったけど、その、あれ……」

「うん?」

「つまり、えっと……しんどくなったら、いつでも吐き出してねってこと。私のこと空気だと思ってくれていいからさ」



「あー……これも偉そうか」と、八代の眉がほんの少し下がる。

空気だと思ったことは1度もない。だって、八代だから話しているのだ。それに偉そうだなんて言うけれど、全くそんなことはなくて。


むしろ、俺の方がごめんと言いたい。あんな不毛な恋の話を、彼女はどんな思いで聞いてくれているのだろう。どう考えたってつまらないだろうし、しかも相手が教師だなんて本当に救いようがない。


それでも八代は1度だって、その救いようのない気持ちを笑ったりはしなかった。それだけで、充分だった。



八代とは仲が良いと自分では思っている。だけど最初にちゃんと話をした時は、今のような関係になるとは思っていなかった。


本をおすすめしてほしいと言ってきた時、どうせ読んでこないだろうと思った。だって、本が好きなようには見えなかったから。


だけどそんな予想は外れて、八代はちゃんと読んできた。感想も長々と俺に話してくれた。そんな八代だから俺も、心を開けたのだと思う。