彼女が大希と付き合っていたのは、約3年間。あんなクソ兄貴でも、隣からいなくなればそれはものすごい喪失感だっただろう。

それに、知っていた。彼女が大希のことを、とても好いていたということを。ふたりでいる時の彼女からは、いつもそういうオーラを感じていた。


そして俺もまた、喪失感みたいなものにどっと襲われた。だって大希と別れたということは、もう会えなくなるということだから。


そう理解した途端、自分の気持ちなんて伝えなくてもいいと思っていたのに、それはあまりにも自分がかわいそうなのではないかと。そう思ってしまって。


だから、理由が欲しかったのだ。これからも彼女に会える理由が。


彼女が働いている高校は、事前に知っていた。本が好きで、司書の資格を持っていることも知っていた。


勉強をして、本を読んで。大希と別れてから会わなくなった間も、結局好きだった。



そんな、不純だらけな動機で、俺は──






『小春ちゃん』

『瑞希くん……!?』



今年の春、彼女の勤めている高校に入学したのだ。



『え、なんで、え……あっ、久しぶり、背伸びたね……っ?』



入学してすぐ、職員室の前で彼女と再会した。案の定目を丸くして驚いていた彼女の身長は、とっくに越してしまっていた。

あぁ、やっぱり変わらない。彼女を目の前にすると、心臓の動きが速くなる。



『はは、驚きすぎ』

『だってそりゃびっくりするよ……! まさかうちの高校の生徒になるなんて……!』

『ね、びっくり。でもたまたまだよ。受かるまで忘れてた』



嘘。忘れるわけがない。彼女がいるから、ここを受験した。


だけど、悟られないように、気づかれないように。



『小春ちゃん、これからよろしく……あ、そんな呼び方じゃだめだね』

『ね、たしかに。私も気をつけないと、贔屓してると思われちゃう』

『じゃあ……朝倉先生、よろしくお願いします』

『うん。入学おめでとう、星谷くん』



もう名前で呼べなくても、敬語しか使えなくてもいい。



3年間、会ったらちょっと話すくらいでいいから、いつか言わせてほしい。


初めて会った頃からずっと温めている、この気持ちを。