願うなら、きみが






頂上の手前までは、高いだとかすごいだとか言いながら、お互いしばらく外を眺めていた。

だけどちょうどてっぺん辺りで大人しくなったかと思えば、「先輩、もういなくなっちゃうんですね」と、ひおがぽつりと呟く。それはおそらく、もうすぐやって来る卒業のことを言っているのだろう。



「会えなくなるわけじゃないよ」

「でも、学校の中探してももういないじゃないですか」

「それはそうだけど」



もう折り返し。いつ切り出そうかな、と。いや、今かもしれない、と。そう思ったのとほぼ同時だった。「由真先輩」と、外の景色ではなく俺の方を見て、ひおが名前を呼んだのは。



「ん?」

「……今日が来たら、ずっと言おうと思ってたことがあって」

「え……」



急に心臓の辺りが、ひやりとした。そして今度は、嫌な音を立てて動き出す。

だってひおの目が、何かを決意したようなそれだったから。もしかして、が頭を過ぎる。これから振られる? やっぱり気持ちには応えられないとか?

なんて、マイナスなことばかりに頭の中を支配されて。


それでも不安を悟られないように、「どうしたの?」と、いつも通りを演じる。だけど内心はめちゃくちゃ怖い。ひおが次に口を開くまでが、スローモーションに見えた。



「……私」

「うん」



あー、やば、場合によっては泣いちゃったりして──



「……先輩と、同じ大学に行きたいです」

「…………え」



しかし、それは杞憂で。聞こえたのはあまりに予想外の言葉で。たぶん数秒くらいは、間抜けな顔を晒してしまっていたと思う。


俺と同じ大学……ひおが?


とりあえずほっとする。ていうかこれ、嬉しいやつだ。



「あ、もちろん、先輩がいるからってだけが理由ではないです。ちゃんと行きたい学部もあるし、いいな〜って前から思ってはいて」

「うん」

「それで、その……」



ひおの声が徐々に小さくなる。それから膝の上でぎゅっと、丸めた手に力を込めたのがわかった。

本題はここからなのだと悟る。また、胸の辺りがざわめく。ひおは一体、何を伝えようとしているのだ。



「先輩みたいに、勉強頑張ります。模試もA判定とれるように一生懸命します。だから……えっと……」

「うん?」

「…………私を……先輩の、彼女にしてほしいです」



不安なんて、一瞬で吹き飛ぶ。それは、充分すぎるくらいの幸福だった。