「そういえば、俺も話したいことあったんだよね」
「えっ、なんでしょう……!」
「見て、これ」
先輩がリュックから取り出したのは、折りたたまれた紙。それを見て、すぐにピンと来た。
「まさか!」
「そう、そのまさか」
開かれたそれには、先輩の志望大学の名前。そしてその横には、大きくアルファベットが書かれていて──
「Aだ……! え、先輩すごい!」
「ね、頑張りましたよ」
A判定、決して簡単にとれるものではないとわかっているから、その言葉通りたくさん頑張ったのだと思う。ほんと、すごい。先輩は勉強までできてしまうのか。私も頑張らなきゃ、と自然と思えてくる。
「ほんとにすごいです、先輩。たくさん褒めます!」
「ありがと」
「わ、めちゃくちゃ点数とれてますね。うわ〜天才だ〜」
「ねぇ、ひお」
「はいっ」
「だから、いい?」
向かい合わせ。先輩の右手が、私の右手をすくう。温かくて、心地よくて、ドキドキして。何を言われるのかなんとなくわかったから、フライングして口角が上がってしまった。
「ひおのこと、1日ちょうだい?」
先輩も同じように微笑む。繋がった右手にちょっとだけ力を込めて、何度も大きく頷いた。
──高校生になって知ったこと。
制服のスカートは、膝上10センチがいちばん可愛いのかもしれないということ。
購買のパンは、ジャムパンも美味しいってこと。
授業中の先生の話を聞くのも、案外面白いんだってこと。
だけどやっぱりいちばんは、誰かを好きになるって、綺麗で汚くて、幸せで苦しくて、嬉しくて悲しくて、いつも何かと隣同士で、だからこそ、尊かった。
精一杯に向き合った私たちの恋が、どうか美しい思い出でありますように。
そしていつかそれを振り返った時に、隣にきみがいますように。
私はきっと、明日も明後日も、そう願うのだろう。


