こんな未来があるなんて、1年前の私も、半年前の私も、少しも想像していなかった。
あの彼を──星谷くんを好きじゃなくなることも、由真先輩に告白をされることも、考えたことなんてなかった。
だけど今の私は、前に持っていた恋心ときちんとお別れをして、先輩の気持ちを正面から受け取って。
同じ気持ちを、返そうとしている。
今までの全部が今日に繋がるできごとで、毎秒がその積み重ねだったのだとしたら、たくさん泣いたあの日も、落ち込んだあの日も、全て無駄なことではなかったのだと。
そう考えたらこの1年半のどれもが、愛おしく尊く思えて仕方がない。
「それがひおの、今の気持ち?」
「……はい」
「言ったじゃん。それで充分だって」
先輩が嬉しそうに笑った。先輩が嬉しそうだと、私も嬉しい。きっと、誰かを好きになるってこういうことなんだな、と。
そう思ったらまた、嬉しくなった。
「先輩は、気持ち、変わってませんか?」
「うん」
「他のひと、好きになってない?」
「うん、なってない」
先輩の綺麗なアーモンドアイが、ゆるく細まる。それは、やさしさが100パーセント詰まった眼差しだった。
「ひおが好きだよ、ずっと」
目を見て、大切に紡いでくれたその言葉で、もう少しの不安も無くなった。代わりにふわふわと、あたたかい何かで胸の中がいっぱいになる。
「う、嬉しい、です」
「たぶん俺の方が嬉しい」
「ごめんなさい、時間がかかって」
「いや? 卒業まで待つつもりだったから、全然」
「先輩は、やさしすぎますよ」
「ひおにだけね」
「これからも、そうがいいです」
「言われなくてもそうだよ」
きっとどれもが青春の1ページ。だけどこのページだけは、いつまでも忘れたくない。


