先輩の瞳が一瞬見開く。びっくりさせている自覚はある。何も宣言せずに、こんな話を始めたのだから。
数分前の自分とはまるで違う。とにかく伝えなきゃ、と思った。だって先輩は、ずっと待ってくれている。
「さっきのだって、ほんとはたまたまじゃなくて……先輩に会いたくて、探してて」
「うん」
「あと、それと……っ、この前も……えっと」
「うん、ちゃんと聞いてるから。ゆっくりで大丈夫」
話したいことは上手くまとまっていないくせに、早く言わなきゃと言葉が喉の辺りで渋滞を起こしている。
そんな私を見て、先輩がそう言ってくれたから。その言葉に甘えて、1度大きく深呼吸をした。
おかげでいくらかマシになる。落ち着け、私。伝わるように言わないと、意味が無い。
「……想像したんです、色んなことを。先輩が卒業して、大学生になって、そこでたくさんのひとと出会って……それで、いつか別のひとを好きになるんだと思ったら……」
視線はずっと交わっている。先輩は今、そのやさしい顔の裏で何を思っているのだろう。
私は、私は。
今だってそのことを考えると。
「……くるしい、というか、嫌だなって思って」
「うん」
「先輩への返事……時間をかけてしっかり考えて……だけど、自分の気持ちがわからなくて。でもこうやって話してたらなんか、あれです……整理、できてきたかもしれないです」
先輩は私の話を遮ることなく、ただやさしい相槌をくれていた。思い返せば、いつだってそうだった。私は今まで、何度それに救われたのだろう。
「ほんと? じゃあ、聞かせてくれる?」
そんな先輩に、どうか届いてほしい。
「先輩」
「ん」
「由真、先輩」
「なーに、ひお」
「……この気持ちの全部が……先輩のことを、好きってことだったらいいなって……そう、思ってます」
これが今の、精一杯の
「……これが答えでは、だめでしょうか」
先輩への、返事だ。


