「どうした?」
「え、っと……」
「考え事?」
「いや……」
言うならきっと、今なのだろう。こうやってチャンスをくれているのに、それでもまだ、どうしようなんて考えている。
正直、もっとすんなりと話せると思っていた。でもそれができないのは、やっぱり少し前とは気持ちが変わった証拠なのだと思う。
慎重にもなるし、臆病にもなる。
だけどそれは先輩も同じだ。私のこの態度に、先輩はきっと不安を覚えていると思う。今から何か嫌なことでも言われるのだろうか、と。
それなのに──
「じゃあ、いいものあげる」
「、え」
「だってひお、難しい顔してるから」
明らかに私がいつもと違うことを感じているはずなのに、先輩はそれ以上は何も聞いてこなくて。代わりにリュックの中から何かを取り出して、私の手のひらの上へ置いた。
視線を落とす。それは、先輩が私によくくれていたチョコレートだった。
きっとそれが、きっかけだった。
手のひらに乗った微かな重みに、見覚えのある包み紙に、先輩の、やさしさに。
胸の奥が熱くなって、鼻の奥もツンとして。
「……くるしいです、先輩」
考えるよりも先に、溢れた。
今さっきまでずっと頭であれこれ考えて、伝えたいはずの気持ちは喉の奥に留まっていたのに。
それが嘘だったみたいに、感じたことそのままが口からこぼれ落ちた。
「え、どうした?」
「今、ものすごく、胸がくるしいです」
「具合悪い? どっか座る?」
先輩は心配そうにそう言って、屈んで目線を合わせてくれる。首を横に振って、真っ直ぐ先輩の目を見た。
先輩が初めて、私に気持ちを伝えてくれた時と同じように。
「……このチョコレートひと粒にも、今までずっと先輩の気持ちが乗っかってたのかなって思ったら、なんか、ぎゅっとなってくるしい、です」
「えっと……もしかして俺今、ひおのこと困らせてる?」
再び首を横に振る。たぶん今なら、全部言える気がして。決してこころの準備ができたわけではない。だけどきっと、溢れてきてしまうから。
チョコレートを、ぎゅっと握った。
「先輩、あのね、私……さっき怖かったんです」
「何が?」
「1年生の子と仲良さそうに話してるのを見て、先輩が……」
「うん」
「先輩が……とられちゃったら、嫌だなって」
喉のつっかえは無くなって、胸の中でぎゅうぎゅうになっていたものたちが、ようやく言葉になっていく。


