手のひらをぎゅっと握る。ここまで来たんだから、自分から言わなきゃ。
「あ、あの、先輩……もう帰りますか……?」
「うん。帰るよ」
「……よかったら、一緒に帰ってもいいでしょうか」
先輩にそう言うのに、こんなに緊張したのは初めてだ。いつもどうやって一緒に帰っていたのか、上手く思い出せない。
「なに、一緒に帰ろうと思って声かけてくれたの?」
「か、帰ろうと思ったら、たまたま先輩のこと見つけて……?」
「なーんだ、たまたまか」
「まぁ、なんでも嬉しいよ」と、先輩は上履きを脱いで下駄箱へ入れた。その横顔を見て、また後悔する。
だって違う、たまたまじゃない。
先輩に伝えたいことがあって、校舎の中を探し回った。先輩が他の女の子と話しているのを見て、焦った。
それなのに誤魔化してしまう私は、ものすごくずるい。
先輩は今だって、素直に気持ちを伝えてくれるのに。私はまだ、準備ができないままで。
最初の言葉が思いつかないとか、恥ずかしいとか、タイミングがとか、そんなことばかり思っちゃって。
どうしよう、と突っ立ったままでいれば、先輩に「帰らないの?」と言われてしまったので、首を横に振った。
「……帰ります」
「ん、待ってる」
靴に履き替えて、先輩と並んで歩き出す。先輩と別れるまで、まだ時間はある。
だけど、どうやって切り出せばいいのかな……いや、まずは頭の中で話すことをまとめないと……でも、先輩と話しながらそんなことできるのかな……。
隣に先輩がいるのに、歩きながらひとりでそんなことばかり考えてしまって。きっと相当変だったのだろう。「ひお」と、先輩が立ち止まったから、つられて私も歩みを止めた。


