八田くんの言葉が胸の真ん中に突き刺さる。だけど暴力的なものではなく、痛いけどじんわりとやさしいものだった。

それは八田くんが意地悪ではなくて、私のためを思って言ってくれているってわかるから。



「もう! 八田くんの鬼!」

「間中さんが言わないから、俺が言ってあげてる」

「陽織、大丈夫! 八田くんは先輩のこと全然知らないわけだし、」

「ううん、あーちゃん。八田くんの言う通りだよ」

「陽織……」

「いつまでも先輩が私のこと好きだなんて、そんなことないと思う」



先輩が私を好きでいてくれていることは、当たり前のことではない。確かに返事は待つとは言ってくれたけれど、それがずっと私を好きでいることとイコールになるわけではない。

私と同じように、先輩にだって選ぶ権利がある。


そう考えたら、急に怖くなって。また胸がチクチクと痛んで。


そしてなんとなく、理解する。


あぁ、きっと、今なのだろう、と。



「先に言っておくけど、八代さんのこといじめたいわけじゃなくて、普通に心配してんの」

「それはとても伝わってます……ありがとう」



考えさせてほしい、と。先輩のやさしさに甘えて、先輩の時間を貰って。

先輩のことが大事だから、たくさん考えたいと思った。だから時間をかけて考えてはみたものの、それでも今抱えているこの気持ちがなんなのか、わからなかった。


だけど、思っていることならある。感情ならある。たとえそれに、今自分で名前を付けることができないとしても。



「……たしかに、明確な答えは出せてない、けど」

「けど?」

「先輩が言ってくれたの。私の伝えたい時に私の言葉で伝えてくれたら、それが答えでいいって」

「うん」

「今、伝えたいことなら、ある」



先輩が誰かにとられたら、先輩が私を好きじゃなくなったら。

先輩が他の誰かを好きになったら。


それはすごく、嫌です。



なんて、たったそれだけの、自分勝手な我儘。

だけど今すぐ伝えないと、だめな気がした。