「ならいいけど!」
「いじめてたらどうしてた?」
「ぶっ飛ばす!」
「危な、気をつけよ」
なんて、こんな会話ができるくらい、あーちゃんと八田くんも普通に話せる仲である。
「よーし、塗るぞー!」と、あーちゃんが筆を取った。だけど私には気になることがひとつ。別の話題になる前に、さっさと聞いてしまおうと決意する。
「……で、八田くんさ」
「なに?」
「さっき、なんて言おうとしたの?」
「え……」
八田くんの視線が、一瞬あーちゃんに向く。
それから、〝間中さんいるけど大丈夫なの?〟と目で訴えてきた。
普通に話す仲ではあるけれど、3人でそういう話はしたことがない。だからこそ気を遣ってくれているのだと思うが、それは無用である。
「当たり前にあーちゃんはぜーんぶ知ってるから、全然大丈夫」
「え、なになに、なんの話してたのっ」
「……八代さんが告白の返事をまだしてないって話」
八田くんが包み隠さずにそう言えば、あーちゃんの大きな瞳が細まった。むっとした顔で、「あのねぇ」と八田くんの前に人差し指を向ける。
「返事は急がなくていいって、向こうが言ってくれてるの。だから陽織のこと急かさないでもらっていーい?」
「急かしてるっていうか、心配してんの」
「心配? どんな?」
その回答こそ、きっとさっき八田くんが私に言おうとしていたことなのだろう。手を止めて、そちらへ集中する。
「そんなことしてたら、その先輩誰かにとられちゃうんじゃないのって」
ドキリ、として、その後にチクリ、とした。
全く考えたことがなかったわけではない。だけど第三者からそう言われたら、本当にそれが現実になってしまいそうで。
「まさか、そんなわけないじゃん」
「そんなのわからなくない? 先輩モテるんでしょ? それに、ひとの気持ちなんて変わるわけだし。ずっと八代さんのこと好きでいてくれる保証なんて、どこにもないんじゃないの」
──100パーセント、八田くんの言う通りだ。


