願うなら、きみが


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「顔しんでない?」



中間テストという名の一大イベントが終わり、休む暇も無く文化祭の準備期間に突入した。看板の色塗り担当になったので、ひたすら絵の具で塗り潰している最中、八田くんが私の顔を見るなりそう言ってきた。



「え、そう見える?」

「なに、テストだめだったの?」

「いや、そんなことないよ?」



嘘ではなく、本当に今回のテストは頑張った。由真先輩が頑張っているから、私も怠けていられないぞ、と。いつもよりもちゃんと勉強した。なので今まででいちばん手応えがある。まぁ、元があまり良くないので、ハードルはめちゃくちゃ低いのだけれど。


八田くんが私の反対側から黒の絵の具を塗っていく。私たちのクラスはお化け屋敷をやることになったので、パレットの上には暗い色ばかりが乗っている。

去年先輩がお化け屋敷の準備は大変だったと言っていたけれど、本当にそうだ。設定を考えたり、通路はどうするか何パターンか案を出し合ったり、段ボールの組み立てをしたり、衣装の用意をしたり、などなど。

そもそもお化け屋敷自体得意ではないので、今年は完全に裏方として働くことにした。八田くんもそのひとりである。


で、その八田くんには今、私の顔がしんだように見えているらしい。

しんではいない、ただぼーっとしていただけだ。ちょっと、考え事をしながら。



「もしかしてまだ悩んでるの?」



八田くんが眉間に皺を寄せて、私の頭の中を見透かす。なに、とは言わなくても、彼にはわかってしまうらしい。



「なんでちょっと引いてるの」

「引いてはないけど、」

「あれ、八田くんじゃーん!」

「あ、あーちゃんおかえり〜ありがとう」



八田くんが何か言おうとしたところで、筆を洗うバケツの水を交換しに行ってくれたあーちゃんが戻ってきた。

「あ、もしかして陽織のこといじめてる?」と、私と八田くんの間にバケツを置く。八田くんは早速そのバケツに使っていた筆を入れながら、「全然」と答えた。