願うなら、きみが






「あの日……八代が学校休んだ日、先輩が図書室に来たんだ。本を借りにね。当たり前だけど最初は全然わからなくて。普通に知らない先輩だと思って対応してたんだよね」

「じゃあ……なんで気がついたの? それが由真先輩だって」

「先輩が話しかけてきて、八代が学校来てるか聞かれて。八代の知り合いなんだと思ってたら、バイトが同じだって言われて。それでピンと来た。まぁ、ずっと女のひとだと思ってたからびっくりしたんだけど」



こちらも非常にびっくりである。だって先輩はそんなことがあったなんて少しも言わなかったし、まさかふたりが会って会話をしていたなんて夢にも思わないし。

偶然って、すごい。



「そうなんだ……で、何話したの?」

「えー……それは秘密」

「えっ、なんでよ」

「安心して。悪い話はしてないから」



当然、それがいちばん気になるわけで。でも星谷くんは一切教えてくれなかった。そんなに重たい話だったのだろうか。気になる。だけど聞き出すのはどうしても無理そうなので、今回は我慢するしかないらしい。



「……じゃあ、聞かないでおく」

「でもね、よくわかったよ」

「え、何が?」

「先輩が、八代のこと本当に大切にしてるんだって」



なのにそんなことを言われてしまえば、やっぱり気になっちゃうじゃん、と。奥底に沈めたはずの興味がまた浮き上がってくる。

だけどもう1度チャレンジするよりも前に、「ねぇ、八代」と名前を呼ばれたから。素直に「うん」と返事をした。



「八代は、ちゃんと大切にされるべきだよ」

「え、」

「だから、幸せになってね。それがどんな形でも」

「、っ」



今日は感情が忙しく働く日だ。ぐるぐるぐるぐると気持ちが回っている。

あぁ、こっちの方が、夢にも思わなかったかもしれない。



「星谷くん」

「うん?」

「私も、同じこと思ってるよ」

「え?」

「どうか、星谷くんが幸せになるように、願ってる」



こんなことを、きみに言える日が来るなんて。