ここを通る生徒はほとんどいない。だけど最新の注意を払って、なるべく小さな声で先に「あのね」と投げかけた。星谷くんにひとつ謝らなきゃならないことがあるから。
「ん?」
「実はさっきその……先生に会って、ちょっとだけ聞いてしまいました」
「え、何を?」
「……星谷くんとはどうですか、って。ごめんね、勝手に」
「なんだ、そんなこと。今更八代に隠すことなんて無いから、全然大丈夫だよ」
そう言ってくれるだろうなとは思っていたけれど、言葉をくれて初めてほっとする。
それに、ふたりで先生の話をするのも久しぶりで、随分と懐かしい気持ちになった。
本当に今、あの頃とは違う気持ちで話を聞けている。
「別に何も無いって言ってたでしょ?」
「……うん」
「やっぱり。まぁ、実際そうだしね」
星谷くんは体勢を変えて、今度は窓の外に目をやった。その横顔は好きだった時と変わらない、誰かを想っている顔で。
それでもやっぱり私は、その時と同じ気持ちにはならなくて。届かないとわかっていてもずっと好きでいるの、一途だなって。さっきからそればかり思っている。自分だって前までそっち側にいたのに、もう遠いひとみたいな、不思議な感覚だ。
「あのひとのことは好きだよ、今も。でも、今の関係以上を望んでるのかは、正直わからなくなってる」
「え……わからないって?」
「今あのひと、合コンとか出会いの場行きまくっててさ」
「ああ……そんなようなこと言ってた気が……」
「それでも好きな気持ちは変わってないし、気の済むまで好きでいようとは思ってるんだけど。なんか、色々考えちゃって」
つまり、その恋に終わりが見えているのかなって。長年の恋の終わりを決めるのかなって。そんなことを考えていれば、外を見ていた星谷くんの視線がこちらへ戻ってきた。


