願うなら、きみが






──「卒業するまでにまた遊びに来てね」

「はい。あ、早速来週本返しに来ます!」

「ふふ、そうだった。じゃあ、気をつけて帰ってね」

「さようなら、先生」



それから先生と少し話をして、元々の目的だった本を借りて図書室を出る。憎しみも怒りも何も無く、あるのはすっきりとした気持ちだけだ。

先生は自分のことをちょっとだけ話してくれた。好きなひととは上手くいかないまま関係が終わってしまったこと、今は新しい出会いを探していること。

話を聞く限り、星谷くんの恋はやっぱり前途多難だな、って。そう思って顔を上げたのと、ほぼ同時だった。



「あ……」

「、あ」



今日は、そういう日なのだろうか。

反対側からこちらへ向かってくる人物と目が合って、つい声が出てしまう。



「星谷くん……」

「久しぶり」



さっき話題にしていたからこそ余計に、タイミングがすごいな、なんて思った。

きっと図書室へ向かっていたのだろう。何冊か本を抱えている。



「えーっと……体育祭の前に廊下で会ったぶり……かな」

「そうだね。やっぱクラス離れると全然会わないね」



お互いに近寄って、言葉を交わす。ちゃんと話すのは本当に久しぶりで、私は前このひとが好きだったんだと思うと、不思議な感じがした。



「……どう?」

「え?」

「最近、色々……?」



世間話、的な。友達として星谷くんの近況を知りたかったから、そう聞いてみた。緊張みたいなものはほとんど無かった。



「普通に楽しく過ごしてるよ」

「そっか。それはよかった」

「……なんて、八代が気になるのはそういうのじゃないよね」

「え」

「時間ある? ちょっと話さない?」

「あ、うん……」



星谷くんの方からそんな提案をされるのは予想外で、何も考えずに頷いてしまった。

図書室の近くではちょっとあれなので、少し離れた廊下の端っこへ。隣で壁に寄りかかる星谷くんは、なんだか前よりも少しだけ身長が伸びたように感じた。