「えっと……その……」
「〝聞きたいことがある〟って顔してたから。違ったらごめんね?」
ぷるんとした桜色の唇が弧を描く。先生は相変わらず大人可愛いを纏っている。
元好きだったひとの、好きなひと。
「先生は……星谷くんとは……」
扉の向こう側へ聞こえてしまわないように、先生だけに聞こえるくらいの小さな声で尋ねた。
ふたりが今どうなのかは全くわからない。こんな場所でこんなふうに聞くのはずるいかもしれないけれど、聞かずにはいられなかった。
勝手にごめんなさい、星谷くん。こころの中でちゃんと謝る。だけど先生は彼の不利益になるようなことは、きっと私には言わないと思うから。
「何も無いよ、彼とは」
案の定、必要最低限の答え。それを聞いて、以前とは違う感情が胸の真ん中を流れていく。
「……そう、ですか」
「最近八代さん図書室来ないけど、何かあった?」
そんなことを聞いてくるってことは、たぶん何も聞いていないのだろう。言わないでいてくれたのか、言う必要なんてなかったのか。今ではもう、どっちだっていい。
自分の口から、打ち明けよう。
「……私、振られたんです、星谷くんに」
「えっ……」
やっぱり何も知らなかったみたいな、そんな顔だった。きっと本当に何も聞いていないのだろう。私が星谷くんのことを好きだったってことさえ。
先生の目には、〝仲の良いふたり〟にしか映っていなかったのだ。
「実はずっと好きだったんです、星谷くんのこと。先生のことが好きなのも、好きになった時から知ってました」
「ご、ごめんなさい……私、何も知らなくて」
「全然大丈夫です。もう終わったことなので」
振られてすぐにこうやって先生と話をしていたら、もしかしたら私は泣いてしまったかもしれない。
だけど今涙が出る気配が少しも無いのは、私が前に進めたっていう証拠だ。


