「なんでもいい?」

「はい、どうぞ!」

「夏休み明けたら模試があるんだけど」

「はい」

「第一志望の結果がA判定だったら、ふたりでどっか出かけたい」

「え……」



それは想像の斜め上の返答だった。お菓子とか、購買のパン奢ってとか、てっきりそういうものだと思っていたから。



「だめ?」

「いや、だめじゃないですけど、物だと思ってたからびっくりして……」

「物じゃなくてもいーい?」

「いい、です……けど、そんなのでいいんですか……?」

「それがいいんだけど?」

「っ、」

「ひおのこと1日借りられる券、ちょうだい?」



そんなことを言われたのは人生で初めてだ。私にプレゼントの価値なんて少しも無いのに。それに、自分をあげるってものすごく変な気持ちなのだけれど。



「……はい」

「やった」



それでも先輩が嬉しそうにすると、なぜだかこちらまで嬉しくなる。そういうのが、こころの中にちょっとずつ積み重なっていく。



「でも結果次第ってことですよね……? いや、先輩にはA判定とれないって思ってるわけじゃなくて……」

「うん、わかってるし、それで大丈夫」

「ほんとに……?」

「その方が頑張れるじゃん?」

「……それって結果が出るの、私もドキドキするやつですね?」

「応援してくれる?」

「も、もちろん……!」

「じゃあ頑張る」



その瞬間、頭の端っこの方で思う。

だからつい、言ってしまいそうになった。



「……べつに」

「ん?」

「あ……いや、なんでもないです……模試頑張ってください……!」



結果がなんだって、その券あげますよ、って。



「ありがと」と先輩に言われて、そのまま歩みを再開する。結局家の前まで送ってもらって、「おやすみなさい」と言い合って。


先輩の背中を見送る。見えなくなってからもずっと、花火の音が響いているみたいに胸が鳴っていた。