それだけでもう、胸がいっぱいになってしまう。



「全然わかんなかった、です」

「うん、知ってる。ひおはずっと、星谷くんしか見てなかったからね」

「う……」



本当に、先輩と私は同じだったんだ。そんな先輩に、私はいつも救ってもらってばかりだった。



「でも、今はちゃんと俺を見ようとしてくれてるから、すごい嬉しい」

「そりゃ見ますよ……当たり前です」



改めて思う。あの頃からは考えられないことが起きているのだと。だって、私はずっと星谷くんのことを好きでい続けるものだと思っていたから。


今はただ、目の前にいる先輩のことだけを考えている。



「ありがと」

「こちらこそ、です」

「はい、ひおはそろそろ帰る時間です」

「えっ、もうそんな時間……!」

「ひおの浴衣も見れたし、明日からまた勉強頑張れる」

「そ、それはよかったです!」



時間というのはあっという間に過ぎていく。そろそろ帰らなければ。お母さんが心配してメッセージを送って来る前に、【そろそろ帰る!】と先に送信した。

先輩が近くまで送ってくれるとのことで、公園とお別れをしてふたりで家の方へ向かう。



「次に会えるのは、新学期ですかね」

「学校で会えたらね」

「……あ、新学期になったらあれですね。先輩、誕生日だ」



9月3日。去年は当日にバイト先でお祝いの言葉を伝えた。



「覚えててくれてたの?」

「もちろんです! あ、何か欲しいものありますか?」

「え、くれるの?」

「できる範囲でなら……!」

「いやいや、おめでとうって言ってくれるだけで充分」

「それは当たり前にするので、それ以外で」

「ひおの方が誕生日もうすぐじゃん」



先輩の言う通り、私の誕生日がその2週間前にやって来る。でも今は私のじゃなくて、先輩の誕生日の方が重要だ。

だって、高校最後の誕生日なのだから。



「それこそ、おめでとうだけで充分です」

「俺も同じなんだけど?」

「受験生に余計なことさせられないですよ」

「余計なことじゃないのに」

「先輩早く。家着いちゃいます」



すると先輩が立ち止まる。同じようにそうすれば、「じゃあさ」と、何か考えた後で先輩はそう言った。