「美味しーい!」
「祭りのご飯ってなんでこんな美味しいんだろ」
出店で色々と買ってから、レジャーシートを敷いて座る。これで花火を見る準備は整った。
フランクフルトに焼きそばにラムネ。仁先輩と同じく、私もお祭りのご飯が好きだ。
あーちゃんの家を出た時よりも空は暗くなってきて、周りからは花火が打ち上がるのを楽しみにする声が聞こえる。
だからもうそろそろかな、と。「ねぇねぇ、あーちゃん」と、隣に座るあーちゃんにこっそり耳打ちをする。
「なに、どしたっ?」
「花火、仁先輩とふたりで見なくていいの?」
それは、誘われた時からずっと思っていたことだった。
「えーっ、大丈夫だよう」
「仁先輩はふたりで見たいかもだよ?」
思った通りの答えが返ってきたけれど、本当はふたりで見たいに決まっている。今日1日、ずっと由真先輩と私に気を遣ってくれているのだ。だけどそんな素振りをふたりとも少しも見せない。
だからせめて今だけは、ふたりの時間を満喫してほしい。
「でもそしたら陽織たちはどうするのさ」
「私たちは私たちでどうにかするよ」
「でも……」
「大丈夫大丈夫、ねっ?」
あーちゃんの答えを待たずに立ち上がる。それからつんつんと、由真先輩の肩をつついた。
「由真先輩」
「ん?」
「りんご飴食べたいので、一緒に買いに行きませんか!」
「え、あ、うん、行こ」
「でももうすぐ花火始まっちゃうよ?」
「戻って来られなかったらごめんなさい! では!」
ごめんなさい、仁先輩。戻ってくる気は少しもありません。
あーちゃん、仁先輩とふたりで楽しんでねと、そういう意味を込めて手を振れば、〝ありがとう〟と口パクで返ってきた。
あとはこの場を離れるだけ。とりあえず、ミッション成功である。


