願うなら、きみが






──「あーちゃんママ、ありがとうございます」

「いいのいいの〜! すごい可愛い! 似合ってるねぇ」

「髪どうする? 前とは違うのにしようよっ」

「うん、何がいいかな」



私とあーちゃんだけ先に切り上げて、リビングへ。あーちゃんママが浴衣の着付けをしてくれて、あーちゃんがヘアセットをしてくれて。

これは手土産に持ってきたフルーツゼリーでは足りないくらい、めちゃくちゃ贅沢である。それでも快く引き受けてくれたあーちゃんママには、また後でたくさんお礼を言おう。



「お待たせしました〜」

「おー! ふたりとも似合ってる! ね、由真」

「うん、似合ってる」

「ありがとうございます」

「よーし、じゃあ行こ〜っ」



結局サイドポニーにした。もちろんあーちゃんとお揃いである。

先輩たちと4人であーちゃんの家を出た。夏の夕方はまだ明るい。少し歩けば浴衣を着たカップルや、小さな子供を連れたご夫婦などがちらほら。向かう場所はきっとみんな同じだ。

土手までは歩いて10分程。前にあーちゃんと仁先輩、その後ろに由真先輩と私。前のふたりは動画を撮ったりしながら、楽しそうに歩いている。



「ピンクも似合うね、ひお」

「えっ、ほんとですか?」

「うん、かわいい」



並んで歩いていれば、さらりとそんなことを言われて。さっきの『うん、似合ってる』で終わりだと思っていたから、完全に油断していた。

〝かわいい〟をありがたく受け取って、胸の中に閉じ込める。

文化祭の時も同じようなことを言ってくれたけれど、今あの時と同じリアクションを取ることはできない。

そこに先輩の気持ちが乗っているって、もうわかっているから。



「あ、ありがとうございます……」



きっと聞こえないくらいの小さな声だったのに、先輩は笑ってくれる。

その顔を見て、早く答えを返したいだなんて、そんなことを思った。