願うなら、きみが






「……伝えたく、なった時」

「うん。てか、ひおの中で俺はアリなんだ?」

「ご、ごめんなさい、上からで……」

「ううん、全然。まぁ、だからあの時振らないでいてくれたんだろうけど。でもひおの口から聞くと普通に嬉しいっていうか、照れる」

「それは……よかった……?」



じ、と先輩を見つめる。すると先輩は、「ちょっと待って、恥ずかしい」と自分の手で顔を覆ってしまった。どうやら2回戦目は私の勝ちらしい。

いつも余裕があって、甘やかしてくれて。そんな先輩のそういう部分を見ると、ドキドキとは違う何かが胸の中に生まれる。

くすぐったくて、こちらまで照れてしまうような。だけどやっぱり嫌じゃない。

その正体を突き止める前に、先輩の手が退いて、また綺麗な顔が目の前に現れた。



「だからうん、そういうことだよ」

「え?」

「ひおが俺のことたくさん考えてくれて、それで伝えてくれる気持ちなら、なんだって嬉しいってこと」



先輩の言葉は、ひとつひとつが毛布に包まれているみたいにやさしい。だから安心して、つい甘えてしまって。

このままの私でいいのだと、そう言ってくれているみたいだ。だけどわかっている、いつまでもこのままではいけないということは。



「……わかりました。もうちょっとだけ時間ください」

「ん、ありがとう。待ってる」



それからすぐ、廊下からふたり分の足音が聞こえてきたと思ったら、「ただいまー!」と部屋のドアが開いた。危ない、ギリギリだった。だけどちゃんと話せてよかったと、ひとりでこっそりとほっとする。



「おかえり、ありがとう」

「ありがとうあーちゃん、仁先輩」

「いいえーっ! 溶けないうちに食べよっ!」



買ってきてくれたアイスを食べて、また勉強を再開した。花火大会まであと数時間。楽しみが待っていると思えば、好きじゃない英語の問題集もいつもよりスムーズに進めることができた気がする。